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佐賀地方裁判所 昭和34年(わ)295号 判決 1960年10月07日

被告人 福井鶴太郎

明四四・一〇・三〇生 農業

主文

被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三二年六月一八日頃から同年八月三一日頃までの間に、佐賀市兵庫町大字瓦町字堀立の福井三郎方前から被告人方前を通り福井常作方庭先に至りほぼ東西に走る幅員約一・五五米、長さ約五〇米の道路の被告人方東端から東方約二三米の区間の南側を幅員〇・五ないし一米にわたつて削り取り、さらに、右削り取つた泥土を右道路の被告人方前約一〇米の区間の北側に幅員〇・五ないし〇・九五米にわたつて堆積して、道路を損壊および壅塞し、往来の妨害を生じさせたものである。

(証拠の標目)(略)

本件においては、前記の福井三郎方から福井常作方庭先に至る本件道路が刑法第一二四条第一項の往来妨害罪にいう「陸路」に当るかどうか、および右本道路の幅員について争があるので、右挙示の証拠によつて、特に判断を示すこととする。

(一)  まず、右法条にいう「陸路」とは、公衆の通行の用に供されている道路を指すものであつて、それが道路法によつて定められた国道、都道府県道、市町村道であるかどうか、その道路敷地の所有権が何人に属するかどうかは問題でない。

そこで、本件道路についてみると、本件道路は、被告人方および福井常作方の共同の曽祖父である福井忠三郎によつて明治初年以前に造られたものと推測されるがこのことはともかく、福井常作方は被告人方からすでに明治初年以前に分家し、本件道路は、以後今日に至るまで右両家を訪れる者によつて通行の用に供されていたものであることを認めることができる。もつとも、本件道路とほぼ平行して被告人方および福井常作方前方を通る国道に右両名方から出るには本件道路の外に大正五年頃造られた別の道路があつて、この方が国道に出るには近道であるが、本件道路は右国道に通じているのみでなく、右国道から北方に向う道路にも通じており、この道路に出るには前記国道への近道の道路を通りさらに国道を通つて出るよりは本件道路の方が近道であつて、本件道路に利用価値が全くないとはいえず、かつ前記のとおり通行の用に供されていたものであることを認めることができる。

そして、明治二一年三月作成された土地台帳法に基く地図にも、本件道路は、地番をつけられてなく、道路様の形状に記載され、さらに現在に至るまで本件道路の敷地の所有権の登記がなされた事実も認められない。ところで、本件道路は、佐賀市合併前の旧兵庫村において旧現道路法による村道として認定されていたかは不明であり、昭和二九年三月三一日の同村の佐賀市合併後もこれをそのまま受け継いだもので市道として認定されていたか不明であるが、昭和三二年九月二八日佐賀市において従前の市道をすべて廃止し新に市道を認定した際本件道路は認定外となり、現在においては市道として認定されていない。しかしながら、佐賀市合併前の旧兵庫村においては本件道路を地元堀立部落に委託して管理し、佐賀市合併後は右部落において従前のとおり慣行として本件道路を管理していたことを認めることができる。

以上の事実によつてみると、本件道路が被告人方の曽祖父によつて造られたものであるにしても、それは明治初年以前であり、その後前記地図にも道路様の形状の記載があり、本件道路の所有権の登記もなされていず(本件道路の敷地が必ずしも国有であるとは認められない。)本件道路について旧兵庫村および佐賀市において旧現道路法による認定はなされていないとしても、旧兵庫村において部落に委託して管理し、佐賀市になつてからも部落において慣行として管理しているといつた状況であるのみならず、前記のとおり明治初年前福井常作方が被告人方から分家して以後、被告人方および福井常作方両家において通行の用に供していたものである以上、本件道路は、前記法条にいう「陸路」に当るものと認めざるをえない。

(二)  つぎに、本件道路の幅員についてみると、本件道路の幅員は、往時の幅員はともかくとして、昭和一四年頃は約四尺あり、その頃被告人においてこれを約五寸削り取り(以上は殊に証人重富久次の供述による。)その後少しずつ狭くなつて、後記の昭和二九年一二月の覚書作成当時は約三尺となつていたが、昭和二九年一二月福井常作の要望により堀立部落の有志の仲介で本件道路の幅員を約五尺にすることに被告人も承諾してその趣旨の覚書が作成され、その頃本件道路は約五尺に拡張工事されて、被告人の判示行為時に至つたことを認めることができ、右覚書による拡張に一定の期限が付けられていたとする証拠は信用できない。以上の事実に、前記の本件道路の成立、使用、管理状況を併せ考えると、少くとも昭和二九年一二月以降本件道路は約五尺の幅員において前記法条にいう「陸路」となつたものと認めるの外ない。(かりに、本件道路が約五尺の幅員において右「陸路」となつたといえないとしても、被告人の判示行為によつて本件道路は右覚書による拡張前の幅員よりも狭くなつたことを認めることができるので、被告人の刑責は免れない。)

(法令の適用)

判示行為 刑法第一二四条第一項(罰金刑選択)。

労役場留置 同法第一八条

訴訟費用負担 刑事訴訟法第一八一条第一項本文

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉)

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